東南アジアの料理によく登場する調味料「魚醤(ぎょしょう)」。
なかでもベトナムの「ヌクマム(Nước mắm)」は、同国の食文化に深く根付いた伝統調味料であり、多くのベトナム料理に欠かせない存在です。タイではナンプラーと呼ばれていますが、ヌクマムにはベトナムならではのこだわりや歴史があります。
■ ヌクマムとはどんな調味料?
ヌクマムは、小魚(主にカタクチイワシ)と塩を発酵させて作る天然の魚醤です。透き通った琥珀色の液体で、旨味と塩味が強く、独特の風味を持っています。ベトナムでは、炒め物やスープ、漬けダレやドレッシングなど、あらゆる料理に使われる万能調味料として愛されています。
特に有名なのが「ヌクチャム(Nước chấm)」というヌクマムをベースに、ライムや酢、砂糖、唐辛子、にんにくを加えて作るつけダレ。生春巻きや揚げ物、バインセオ(ベトナム風お好み焼き)など代表的なベトナム料理に添えられることが多く、日本人の味覚にもよく合います。
■ 主な産地は?
ベトナム全土でヌクマムは生産されていますが、特に有名な産地は南部のフーコック島(Phú Quốc)です。フーコック等はベトナムとカンボジアの国境付近のタイランド湾に浮かぶベトナム最大の離島で、南部都市のホーチミンから飛行機で約1時間の場所にあります。リゾート地としても人気の場所です。ここフーコック島のヌクマムは、「フーコックヌクマム(Nước mắm Phú Quốc)」としてブランド化されており、EUでも原産地名称保護(PGI)を受けるほど高品質で知られています。
フーコックのヌクマムは、厳選されたカタクチイワシと天日塩を使用し、伝統的な木製樽で12カ月〜24カ月じっくりと自然発酵させて作られます。この長期熟成により、角のないまろやかな旨味と深い香りが生まれます。
■ ヌクマムはどうやって作る?
ヌクマムの製法はとてもシンプルですが、時間と自然の力が必要です。
- 新鮮なカタクチイワシを塩と交互に層状にして木樽に漬け込みます。
- 発酵と分解が進み、魚のタンパク質がアミノ酸に変化して旨味成分になります。
- 1年以上の熟成期間を経て、樽の下部からにじみ出る琥珀色の液体がヌクマムです。
- これをろ過し、瓶詰めして商品化します。
添加物を加えない自然由来の発酵食品であるため、健康志向の人々にも注目されています。
■ ヌクマムはベトナムの故郷の味!
ヌクマムは、単なる調味料ではなく、ベトナム人の生活に根ざした「家庭の味」。どの家庭にも必ず1本は置かれており、地域ごとに微妙に味のバランスが異なるのも魅力のひとつです。ヌクマムの味で、その家庭の味が決まるとも言われています。また、宗教儀礼や年越し料理など、重要な場面でも登場することから、ヌクマムはベトナムの食文化の「芯」ともいえる存在です。
■ 日本でも購入できる?

最近では、日本のベトナム食材店やネット通販のほか、一般のスーパーでも扱うことが増えてきました。フーコック産をはじめとする本格的なヌクマムが、数百円と比較的手軽に入手できます。料理の隠し味に少量加えるだけで、ぐっとベトナムらしい深みのある味に変化します。ベトナム料理好きの方はもちろん、新しい調味料を探している方にも、ぜひ一度試してみてほしい一品です!
ベト屋からも「ベトナムシェフ」ブランドのヌクマムを販売しています(写真上)。
ご関心のある方はお問い合わせください。